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最高裁判所大法廷 昭和29年(あ)499号 判決

主文

原判決及び第一審判決(但第一審判決中被告人東条謙次郎を免訴した部分を除く)を破棄する。

被告人東条謙次郎を罰金一万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間被告人東条謙次郎を労役場に留置する。

第一審の訴訟費用中、証人小池省三、同富田一郎に支給した分は被告人東条謙次郎の負担とする。

被告人落合誠治は無罪。

被告人東条謙次郎に対する公訴事実中、同被告人が昭和二五年四月二五日札幌市内豊平館において被告人落合誠治より、原審相被告人島崎卯一に交付方を依頼されて現金五万円を受領し、同日内金二万円を和田テウ方において右島崎に手交し以て政治的行為をしたとの点について、同被告人は無罪。

理由

被告人落合誠治の弁護人西村卯及び被告人東条謙次郎の弁護人井川伊平の各上告受理申立は末尾添付の書面記載のとおりであり、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

本件第一審判決(差戻後)が被告人両名の犯罪事実として認定したところ(公訴事実どおり)は

第一、被告人落合誠治は、電気通信事務官にして室蘭電気通信管理所長の職にある者で、国家公務員として人事院規則で定める政治的行為を禁ぜられているにもかかわらず、昭和二五年四月二四日北海道登別温泉旅館第一滝本第八新館に於て、同年六月四日施行せられた参議員議員選挙に全国区より立候補した前電気通信省次官鈴木恭一より同人の選挙運動資金として使用せしめるため、嬉野猷次の手を通じて現金三万円を交付されるや、同年四月二十五日午前九時半頃北海道特定局長協会総会を開催中の札幌市大通西一丁目豊平館に於て、被告人東条謙次郎に対し、同協会長たる島崎卯一をして右総会に列席中の富田一郎外二〇数名の特定局長等に饗応して鈴木恭一候補に投票を獲得せしめんため、その資金として右島崎に手渡方を依頼して、右金員に自己の金員二万円を加へ合計金五万円を手交し、以て政治的行為を為し

第二、被告人東条謙次郎は、札幌市東郵便局所属の郵政事務官にして北海道特定郵便局長会連合会並びに財団法人北海道特定局長協会の事務局長を兼務する者で、国家公務員として人事院規則で定める政治的行為を禁ぜられているにもかかわらず(イ)昭和二五年四月二五日午前九時半頃札幌市大通西一丁目豊平館に於て、被告人落合誠治より右鈴木恭一候補に投票を獲得せしめんためその資金として島崎卯一に現金五万円の手渡方依頼されるや、其の情を知り乍ら之を受領し、同日饗応の機会を逸した右島崎より命ぜられて之を保管し、右同日午後七時頃札幌市南七条西四丁目料亭元三筋こと和田テウ方に於て現金二万円、(ロ)右同年五月中頃札幌市南一条西一丁目今井百貨店六階右協会事務所に於て現金一万五千円を夫々右島崎に対し、右鈴木恭一に投票を獲得するための運動資金として手交し、以て政治的行為を為したというにある。

そして、原判決は、右第一審判決の事実の認定にあやまりはないとした上、右被告人等の各所為は、いずれも、国家公務員法一〇二条一項人事院規則一四-七の五項一号六項三号国家公務員法一一〇条一項一九号に該当するものとした第一審判決を肯認したのである。

しかるに、右鈴木恭一が同参議院議員選挙において立候補の届出をしたのは昭和二五年五月四日であることは、原判決の確定するところであるから、前示被告人落合誠治の所為並びに被告人東条謙次郎の(イ)の所為は、いずれも、右鈴木恭一の立候補届出前になされたものであることはあきらかである。

おもうに、国家公務員法一〇二条一項の委任により制定せられた昭和二四年九月一九日人事院規則一四-七(政治的行為)の五項政治的目的の意義として同一号に「規則一四-五に定める公選による公職の選挙において特定の候補者を支持し、又はこれに反対すること」とある「特定の候補者」とは、法令の規定にもとづく正式の立候補届出又は推薦届出により候補者としての地位を有するに至った者をいうものと解すべきであり、未だ正式の届出をしない、原判決のいわゆる「立候補をしようとする特定人」のごときは、右国家公務員法および人事院規則の適用の関係においては、これを包含しないものと解するを相当とする(同旨、昭和二九年(あ)二二八五号事件、同三〇年三月一日言渡第三小法廷判決、集九巻三号三八一頁)。従って、前示立候補届出前にかかる両被告人の所為はいずれも国家公務員法一一〇条一項一九号の罪を構成しないものといわなければならない。

ここに当裁判所の示す法令の解釈は、本件において、さきに札幌高等裁判所が差戻判決においてした法律上の判断とは相容れないものであるが、最高裁判所は、差戻判決に示された下級裁判所の法律上の判断に、拘束されないものと解すべきである。

とすれば、第一審判決が、前示被告人落合誠治の所為ならびに被告人東条謙次郎の(イ)の所為につき前示のごとき国家公務員法及び人事院規則を適用して有罪を認定し、原判決がこれを肯認したことは法令の解釈をあやまった違法あるものというべきであって、本件受理申立の論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。よって刑訴四一一条一号により原判決及び第一審判決(但、第一審判決中被告人東条謙次郎を免訴した部分を除く)を破棄し、同四一三条但書により更に判決することとし、被告人落合誠治に対する公訴事実並びに被告人東条謙次郎に対する公訴事実中、主文末項掲記の部分は、いずれも被告事件罪とならないから、同三三六条に則り無罪の言渡をする。しかし、被告人東条謙次郎の前示(ロ)の所為は候補者鈴木恭一の立候補届出後の行為であるから、第一審判決の認定した右(ロ)の所為に国家公務員法一〇二条一項人事院規則一四-七の五項六項国家公務員法一一〇条一項一九号を適用し、所定刑中罰金を選択し、その金額の範囲内において、被告人東条謙次郎を罰金一万円に処し、罰金不完納の場合の労役場留置につき刑法一八条を、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条を各適用し、主文のとおり判決する。

右は裁判官田中耕太郎、斎藤悠輔、池田克、垂水克己の少数意見を除くその余の裁判官の一致した意見によるものである。

裁判官田中耕太郎、池田克の少数意見は、次のとおりである。

すべて職員は、全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではないのであるから、公正な中立性が要請されるべきことは当然であり、一般人に比し政治的行為の限界が狭められざるを得ないものというべく、この事理に基き国家公務員法(以上単に公務員法と略称する)一〇二条一項は、政治的目的のために寄附金その他の利益を求め若しくは受領し又は何らの方法を以てするを問わずこれらの行為に関与する等の政治的行為を禁止しているのであり、同法一一〇条一項一九号は、右の禁止に違反した職員に対する処罰規定に外ならない。

ところで、公務員法一〇二条一項の解釈をなすにつき最も重視すべきは、同規定が昭和二三年法律二二二号によって改正されている経緯である。すなわち、同法による改正前においては、「職員は、……政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与してはならない」(以下単に本文と略称する)と規定したにとどまったが、改正後においては、これに「あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない」旨の規定を追加(以下単に追加規定と略称する)すると共に、本文又は追加規定に違反した者は、「三年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金に処する」旨の処罰規定(一一〇条一項一九号)までも設けられているのである。これによっても明らかなとおり、いわゆる「政治的目的」の意義については、右改正の前後を通じて変りがないのであるが、政治的行為については、改正前においては、その禁止の範囲を本文のように限定していたのを、改正後においては、その外なお追加規定のように禁止の範囲を拡大し、且つ罰則をも設けているのであって、人事院規則一四-七(以下単に規則と略称する)は、追加規定の授権による委任命令にほかならない。

しかるに、それにも拘らず規則は、六項において「政治的行為の定義」を掲示するの外、五項においては「政治的目的の定義」をも掲示して政治目的を列挙している。そして、このために本文の規定する「政治的目的」の意義が、おのずから限定されるのではないかとの疑を生ずるのであるが、規則で本文の「政治的目的」を限定すべきいわれがないことは、昭和二三年の改正法の趣旨に徴して多言を要しないところである。

してみると、本文の規定する職員の政治的目的のためにする利益の要求、受領又はこれらの行為への関与行為のごときいわゆる買収に関する行為(買収行為と略称する)をなすことは、職員の公正な政治的中立の地位と相容れない政治的行為として本文自体が禁止しているものと解すべきであって、規則を待ってしかるのではない。従って、政治的目的を公選による公職の選挙についていえば、職員が、特定の候補者を支持し又はこれに反対するために買収行為をなすことが本文の禁止に違反するものであることは、当該候補者の立候補届出の前後にかかわらないものといわなければならない。

この場合、留意すべきものに三つある。その一は、本文の保護法益(追加規定についても同様であるが)は、職員の公正な政治的中立性であって、公職選挙法の保護法益が選挙の自由公正であるのと異なることであり、その二は、本文は特定の候補者を支持し又はこれに反対するためにする政治的行為を広く禁止しているのではなく、買収行為に限局してこれを禁止していることであり、その三は、職員の買収行為が本文の禁止に違反するのは職員の政治的中立性と相容れない政治的行為であるからであって、職員の支持し又は反対する候補者が公職選挙法九章の規定するところに従って立候補の届出をしたものであるか否かにかかわらないことである。

しかるに、多数意見によれば、公務員法一〇二条一項の委任により制定された規則五項政治的目的の定義の一号にいわゆる特定の候補者とは、法令の規定にもとづく正式の立候補届出(推せん届出を含む)により候補者としての地位を有するに至った者をいうものと解すべきであるというのである。この解釈の正当でないことは、第一に、前記改正の経緯にも拘らず、解釈の理拠を本文に求めないで追加規定の委任による規則に求めている点であるが、仮りに、解釈の理拠を規則五項一号の定義規定に求めるとしても、第二に、いわゆる特定の候補者を支持し又はこれに反対するためにする職員の買収行為が、何故に当該候補者の正式届出後のものに限られるべきであるとしなければならないのか、何ら説示するところがない点であり、第三に、なるほど公職の選挙には立候補の制度が採られてはいるけれども、それは候補者の濫立防止のためにしかるのであって、選挙の自由公正を確保しようとする選挙法の大趣旨からすれば、同法の解釈としても候補者の意義を実質的に把握すべきであるにかかわらず、正式の届出をした者に限るというような形式的意義に解することは、選挙法の用語にかかずらっているものというべきであり、それこそ是非そのように狭義に解さなければならないような特段の根拠があるとはいえない点である。

或は、多数意見は多数意見と同旨の判例として昭和三〇年三月一日言渡第三小法廷判決を引用していることからみると、多数意見のように解する結果、立候補しようとする特定人を支持し又はこれに反対するためにした職員の政治的行為が公務員法の罰則に触れないことになっても、それは事前運動禁止に関する公職選挙法の罰則に触れるわけであるから、何も強いて政治的行為の禁止に違反すると解しないでもよいではないかとの底意がひそんでいると考えられるのであるが、前にも述べたとおり、本文の禁止するところは、職員が政治的目的のために買収行為をすることであって、それが公職の選挙において立候補届出前の事前運動としてなされた場合といえども、事前運動の制限違反(公職選挙法二三九条、一二九条)は勿論、買収罪(同法二二一条一項四号、五号、六号)を構成することが疑を容れないところであり、それは同時に、職員の公正な政治的中立性と相容れない政治的行為として公務員法一一〇条一項一九号の構成要件を充足するものといわなければならない。けだし、本文(規則六項三号参照)の「寄附金その他の利益を求め」とは、これらの利益の供与又は交付を要求することであり、又、「受領」とは、供与又は交付を受けることである。更に又、「何らの方法を以てするを問わずこれらの行為に関与する」とは、右各行為に関し周旋又は勧誘することであって、職員が特定の候補者を支持し又はこれに反対するために、これらの行為をすることが、本文の禁止に違反するものであることは、当該特定の候補者の立候補届出の前後にかかわらないものと解すべきだからである。選挙法では買収罪をも構成する行為が、公務員法では、当該特定の候補者が立候補の届出後でない限り一〇二条一項の違反罪を構成しないとする多数意見は、首肯することができない。

裁判官斎藤悠輔の少数意見は、次のとおりである。

原判決の維持した差戻前の札幌高等裁判所の二審判決は、本問題について次のごとく判示している。

「国家公務員法一〇二条により国家公務員の政治的行為を禁止又は制限した所以のものは、国家公務員は国民全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではないという公務員の本質上その中立を維持せんとするに在るのであるから、同条による人事院規則一四-七第五項第一号の「特定の候補者」とは、立候補の届出をした候補者のみならずまだ立候補の届出はしないが立候補しようとする特定人をも包含する趣旨であると解するのが相当である。蓋し公務員が公選の選挙において特定人を候補者として支持しその者の為政治的行為をなすことは、その特定人が立候補の届出をしたと否とに拘らず常に公務員の本質に反しその中立性を維持せんとする同条の精神に反するもので、此の種の行為は立候補届出後のもののみを制限すべきであるという特別の事由はないからである。」

わたくしも、原判決と同じく、右の見解を正当と信ずる。元来国家公務員法一〇二条一項が、「職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。」と規定して、「政治的行為」については人事院規則の定めるところに委任しているが、「政治的目的」については法律において人事院規則にこれを規定すべき何等の授権をも与えていないのである。にもかかわらず人事院規則一四-七第五項は、政治的目的の定義を定めて政治的目的を狭く限定している。これは、田中、池田両裁判官の指摘するように人事院の越権であって、本来政治的目的の何たるかは、国家公務員法上この規則に拘束さるべき理由はないものといわなければならない。況んや上告受理申立理由指摘の人事院の通牒(昭和二四年一〇月二一日人事院事務総長発各省事務次官宛、政治的目的第一号関係……「候補者」とは法令の規定に基く正式の立候補届出又は推薦届出に依り候補者としての地位を有するに至った者をいう。)のごときは、採るに足りないものであるこというまでもない。そもそも、公職の選挙において立候補に届出を要するものとした理由は、候補者の濫立を防止すると共に選挙費用を規正する必要に出たものである。されば、政治資金規正法四条は、特に公職の候補者の定義を定め、候補者とはその届出をした者をいうものとした。しかし、政治的行為の一種である公職の選挙運動については、届出をしたと否とを問わずいやしくも立候補しようとする特定人のためにした選挙運動につき違反行為をしたときは、これを処罰すべきものとしているのである。それ故、旧選挙法(大正一四年法律四七号)と同じく届出制度を採用した現行公職選挙法の罰則は、その二二一条以下において、旧旧選挙法(明治三三年法律七三号)と異り、原則として「議員候補者」なる法文の字句を削除したのである。しかしながら、例えば現行公職選挙法二二二条において「公職の候補者のため」云々とある場合には、その候補者とは届出の有無を問わないものと解されているのである(旧衆議院議員選挙法一一二条の二に関する昭和一一年七月六日大審院判決、判例集一五巻九三五頁以下参照)。されば、結局政治的行為に関係のある人事院規則一四-七第五項第一号の「特定の候補者」とあるのは、立候補の届出をした候補者のみならずまだ立候補の届出をしないが立候補しようとする特定人をも包含する趣旨であると解しなければならないのである。多数説は、被告人東条謙次郎の一連の所為を立候補届出の有無によって二分して、届出前の分を無罪とし、届出後の分を有罪とした。しかし、論より証拠、かく区別する合理的な実質的理由は亳も発見できないではないか。

裁判官垂水克己の少数意見は次のとおりである。

(1)若し差戻後の下級審が上級審の差戻裁判に示された判断と異る判断を自由にすることができるとするときは、折角上級審の差戻裁判において示された判断も差戻後の下級審においては単に裁判官や当事者の参考になるだけで何ら事件の解決のための判断に寄与する効力を持たず、事件関係を安定させることのできないものとなる。かくては事件は下級審上級審間の無益な往復を繰り返えし何時落着するかも判らなくなり、上級審の判断に(従って上級審の存在そのものに)権威を認めた意味の大半は失われてしまうであろう。それゆえ裁判所法四条は、上級審裁判における判断はその事件について下級審裁判所を拘束するとしたのである。その結果、差戻後の下級審の裁判が、差戻前の裁判破棄の理由となった上級審の事実判断及び法律見解に従っている限り、それは違法とせられることはなく、たとえその上級審差戻裁判に示された判断が客観的に(再上訴審の判断によれば)誤である場合でも、それはその事件に関する限り差戻後の下級審が判断の基礎としなければならない確定事実または規準規範とせられ、この仕組によって、一般に、事件におけるかような事実点または法律点についての争の繰返しに終止符が打たれるのである。

従ってまた、下級審が裁判所法四条に従い上級審差戻裁判における判断に拘束されてした裁判に対し再上訴があった場合には、再上訴審はその点に関する限りその裁判を違法とすることも許されず違法の主張をしりぞけなければならないのを一般とし、このことは再上訴審が最高裁判所である場合もまた同様でなければならないのも理の当然である。されば若し多数意見が、一般的に「最高裁判所は、差戻判決に示された下級裁判所の法律上の判断に拘束されないものと解すべきである。」というのであるとすれば、例えば、差戻後の一審は控訴審の差戻裁判における法律判断に頓着なくこれと異る判断をしてもよいことになろう。けだし、この場合一審裁判に対する再控訴審は裁判所法四条により右差戻後の一審裁判を違法として一審裁判を破棄するであろうが、この再控訴審裁判に対しては、(若し多数意見を言葉通りに解釈してよいとするならば)一般的な広い上告の途が開かれる結果となり、上告審においては再控訴審裁判を破棄し一審裁判を是認する裁判を上告当事者はかちとることができることになろう。これでは控訴審の職能は微弱化し法の避けようとした無用の上告の試みとこれに対する上告審の判断頻度は高まるほかあるまい。多数意見も、最高裁判所は、差戻判決に示された最高裁判所自身の法律判断には再上告の場合拘束されるとするのではなかろうか。だが、最高裁判所がその差戻判決に示した法律判断が、その差戻判決後再上告判決までの間に例えば大法廷判決によって変更されたような場合にも、右の旧い差戻判決の判断に従ってした再控訴審判決を再上告審としては違法ということを許されないのではないか。(しかし、この点にまで多数意見は言及しているのではないと思われる。)

(2)私は、この問題については次のように考える。当該事件の安定ということも必要である。しかし、一方、最高裁判所は、たとえその事件に関する限りとはいえ差戻判決に顕著且つ重大な誤があるためこれを支持することは正義に反し最高裁判所としてはなすべきでない場合もあり得る。この点をニラみ合わせると、最高裁判所は差戻判決に示された法律判断に顕著且つ重大な誤がある場合のほかは、一般に、その事件についてその差戻判決の法律判断に拘束されてした差戻後の裁判所の裁判をその点で違法として破棄(取消)することはできない、と結論すべきである。そして、本件について、本判決判示「特定の候補者」の意義については、私はさきに札幌高等裁判所が差戻判決においてした法律判断には賛成できず本判決の判断を相当とし、右差戻判決の判断は相当でないと考えるけれども、それはいまだ顕著且つ重大な誤というに足りないと考える。よって、右の点で本件受理申立の論旨は採るを得ないものとせらるべきである。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己)

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